こんにゃくライトセイバー

あさおきて ひるねして よるねた

彼女と海に行きたい

あ、今日はいきなり飛ばしていきます。みんな!ついてこい!!

 

朝、目が覚めると体が重い。起き上がろうとしても、体が動かない。
すわ、これがあの有名な金縛りというやつか!怖い!と思いながらも、自分がどうなっているのか気になり、怖々目を開けてみる。
綺麗な顔立ちの、白い服を着た女性の幽霊が僕に馬乗りになっている。
肩を押さえつけているので、体が動かない。

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「のひ太、土曜だよ!どこか行こうよ!」

 

違う、幽霊じゃない。
そう、こんな僕にも彼女が出来たんだった。「自分に彼女がいる」という状態にまだ慣れない。
あまりにも浮かれてしまい、付き合いたてだというのに家の鍵を渡してしまっていたので、さっそく使ったのだろう。

 

「いま何時?」
サザンみたいなことを彼女に聞く。
「ん?7時だよ?今日、すっごい良い天気になるんだって!30度だって!どこか行こうよ!」
彼女が体をずらしてくれたので、体の自由を得た僕は窓の外を見てみる。確かに作りものみたいな真っ青な空だ。きっと暑くなるだろう。

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「どこに行きたい?」
「のひ太が決めて。今日みたいな天気の日に、私が最高に楽しめる場所に」
彼女のわがままはなぜか心地いい。悔しいから言わないけど。
苦笑いしながら「そうだなぁ」と考えているふりをする。
本当は窓の外を見た時に、彼女の今日の服装が白いワンピースだった時に、行先は決めていた。

 

思いついたふりをして、彼女に告げる。
「決めた。顔洗って着替えるから、少しだけ待って」
満足げにうなづく彼女。
着替えようとして寝巻にしていたTシャツを脱ごうとすると視線を感じる。
「……なんで、見てるの?」
「のひ太の生着替え、見ておこうと思って。眼福、眼福」
「テレビでも見ててよ!」
きっと今日は楽しい一日になるだろう。


手早く着替え、僕らは外に出る。7時だというのに、もう日差しが肌を焼いている。
改めて彼女の服装を見てみると、白いワンピースに白いバケットハット。赤いビーチサンダルが自然に視線を足に向けさせる。
彼氏となった僕が言うのは身内びいきなのかもしれないが、暴力的なまでに可愛い。
「早く行こう!」
待ちきれないように駅へとを急ぐ彼女。改めてこんな子が僕の彼女なのかと思うと、自然と頬が緩んでしまうのを感じる。
「なに、ニヤニヤしてるの?気持ち悪い」
苦笑いしながら、小走りになっている彼女の後ろを歩く。

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電車に乗り込むと、やはり気持ちのいい天気だからだろうか?これからどこかに遊びに行くだろう、親子連れやカップルの幸せそうな姿を見かける。
こういう人たちを見かけると、ちょっと前の僕なら呪詛の言葉を心の中で投げかけていたのに、今は「今日を楽しんで!」と思ってしまう。我ながら現金だ。
そんなことを考えていると、彼女が僕のTシャツを引っ張っていることに気付く。これは自分に顔を寄せろの合図だ。
声が大きいことを気にしている彼女は、公共の場では必要以上に小声で話す。あまりにも小声で聞こえないので、周りに人がいるときは僕が顔を近づけるという暗黙のルールが最近出来た。
顔を寄せると、内緒話をするように小さな声で僕に話しかける。
「みんな同じところに行くのかな?」
彼女の綺麗な声が、息に乗って、僕の耳をくすぐる。
「きっとそうだね、大丈夫かなぁ。僕らの場所が残っているといいね」
そんな他愛もない話を、重要な機密事項のように語り合う。
彼女の「昨日の夕飯」「最近読んだつまらない本」「タンスの角に小指をぶつけた」話ほど、僕は面白い話を聞いたことがない。

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ただ、電車も大きなターミナル駅で乗り換えて、さらに1時間も乗っていると大分空いてくる。
何とはなしに窓の外を見ていると、一瞬だけパッと視界が開ける。
「え?今のって!」
彼女は期待の眼差しをこちらに向ける。
「もうちょっとだから見てて」
というと、忙しなく彼女は窓の外に視線を戻す。
その瞬間、これまで山の中だった景色が、一気に塗り替わる。一面に広がる青色。そう、僕らは海を目指していた。
「のひ太!海だよ!!」
海の照り返しなのか、彼女の顔が眩しい。目を細めながら言う。
「海で……良かったかな?」
実は少し不安だった。女の子はあんまり海を好きじゃないこともあるから。
「うん!だって私の名前、七海だよ?七つの海だよ!嫌いなわけないじゃない!」


(あ、彼女の名前が七海になった)


また山の景色に戻り、また海が見えるたびに顔を輝かせる七海。
「のひ太!海だよ!」
何度も同じことを僕に教えてくれる。


目的の駅に着くと、七海は待ちきれないというように「早く!」と走り始める。そっちは海と逆方向なのに。
僕の持論なんだけど、駅から海まで歩くほどワクワクすることは、そうないと思う。
ドンドン強まる潮の香り。海水浴客をあてにしたひなびたお店。一足先に朝の海を楽しんできただろうサーファーが濡れたままの姿ですれ違う。
「このお店、夏以外は何してるのかな」なんて失礼なことを言っているうちに、防波ブロックの上に立てば海が一望できるだろう、というところまで来た。

 

僕らは顔を見合わせ、どちらからともなく手をつなぎ、走り始める。
「せーの!」
防波ブロックを一気に登ると、どこまでが空で、どこまでが海なのか、一瞬分からなくなる。キラキラと光るコバルトブルー。
「やっほー!!!」
や、それは山でやる奴だから。
彼女の声が海に吸い込まれていく。

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夏の前の海に、人はほとんどいない。「貸切だね」と七海が笑う。
波打ち際に向かう白い砂浜の足跡は、僕らのものしかなかった。

 

「のひ太、海だね」
今日、何度も聞かされたセリフをもう一度、聞かされる。
「そうだね」
「それじゃ、のひ太からどうぞ」
「何を?」
「入るんでしょ?」
「え?海パン、持ってきてないよ」
「え?せっかく海に来たのに、入らないの?」
「まだ水が冷たいよ」
「どれどれ」
結局、七海から先に海に足をつける。

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「キャー!冷たい!気持ちいい!」
はしゃぐ七海。
彼女が楽しそうにしているのを見るたびに、僕の心も軽くなる。
「うわっ!キャー」
どんどん海に足をつける彼女。
「あんまり奥まで行くと危ないよ」と浜から声をかけると、
「キャー!!」
案の定、服を少し濡らしたらしい。
「アハハ。スカートの裾、少し濡らしちゃった」
濡れたのだろう、ワンピースのスカートの裾を少しだけ持ち上げて、僕に見せてくれる。どうしても目が行ってしまう白い太もも。
その視線を感じたのだろう。ニヤリと笑う七海。
「のひ太もおいで。手をつなごう」
僕は断ることが出来ずに、海に足をつけ、七海に近づく。確かに海は冷たいけれど、火照り始めた体には気持ちが良い。
「はい」
七海が手を差し伸べてくれるので、ヨタヨタと手を取る。
その瞬間、グイっと手を引っ張られる。
「うわっ!!」
ジャボンと、あっけなくバランスを崩した僕は頭から海に突入してしまう。
水の中で四つん這いになり、ずぶ濡れになる僕。
「さっきエッチな目で私のこと見てたでしょう。その罰よ」
得意げに七海が笑う。
でも、彼女も同じ目線にいて、ずぶ濡れになっている。おそらく僕を引っ張るときに自分もバランスを崩し、海の中にダイブしてしまったのだろう。

 

「ップ!」
お互いの姿を見て、二人で海の中を笑い転げる。
ずぶ濡れになって困るはずなのに、楽しくて仕方がない。
七海と一緒にいるだけで、とたんに世界が輝く。彼女を知る前は僕はどうやって生きていたのだろう?

七海は四つん這いになりながら、赤ん坊がハイハイするように僕に近づく。
誰もいないし気にすることないのに、内緒話するように小声で言う。
「……今日、泊まっちゃおうか」

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こんななことしてーーー!!
と思いながら、ベッドの中でゴロゴロする土曜日の朝。
おはようございます!のひ太です!!
本当の僕には今日の予定が何にもないのひ太です!!
妄想上の「僕」に嫉妬する。腹立たしい。何なの?お前?ばーか!!

僕の七海はどこにいるのでしょうか?


ジムに行こうと思ってたんですが、行きたくないあまり、日記に逃げてしまいました。
そろそろ行きますかね……。行きたくないよ……。

 

あ、ちなみに写真は適当に僕のフォルダに入ってるやつです。

波照間島、また行きたい。