こんにゃくライトセイバー

あさおきて ひるねして よるねた

ガキと俺①

えっと。

今日はたまに僕が書く、物語的なお話が嫌いな人は読まない方が良いかと。
そのですね……乗っちゃって、すげー書いちゃった。
原稿用紙11枚強。しかもですね、終わってないんです……。
これ、長くなるわ。

 

こんな素人創作をですね、わざわざブログに上げる行為。本当に恥ずかしい。
でも、思いついちゃったら書いちゃって、書いたからには外に出したいと思ってしまうのです。

 

変態行為だということは重々認識しています。
僕も普通に運動とか、楽器が趣味になりたかった……。


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何もかもが腹立たしい。
出社すればピーチクパーチクしゃべり続ける同僚。そいつらの横で上司から仕事のミスを叱られる俺。
俺を怒る前に、隣で五月蠅いこいつらを黙らせろよと思うと、上司の言っていることが頭に入ってこない。
席に戻ることが許されると、さっきまで五月蠅かった同僚達は黙り、好奇の目で俺のことを見る。
だが、誰も俺に話しかけてはこない。遠巻きに面白がるだけだ。


ただただ、ざらついた気持ちだけが胸に残る一日だった。
そんな日だ。まだやるべき仕事は残っていたが、どうせまた怒られれば良いし、誰かがやるだろう。別に仕事に執着はない。定時で退社した。
同僚たちの「は?」という視線を感じたが、こいつらに何を思われても、感じるものは無い。


帰りの電車では座れなかった。座って居眠りこいてるジジイを見ると退かして俺が座りたくなる。
てめーは年金で悠々自適に暮らしてるんだろうが、俺は働いてるんだよ、と。
そんな気持ちを誤魔化すように、俺はカバンからiPodを取り出しイヤホンを耳に詰める。本を開いてページに目を落とす。
外部を遮断した俺だけの世界。
これでいつもなら落ち着けるのだが、今日は上司の叱責、同僚たちの好奇の目が頭に残り、イラついた気持ちが静まらない。
っち。イヤホン越しに聞こえる隣のオバサン達の話声が耳障りだ。iPodのボリュームを最大に上げる。音が漏れたのだろう、オバサン達が迷惑そうにこちらを見る。無視して本を読み続けた。いい気味だ。ざまーみろ。

 

俺は家に帰るために乗換えするはずのターミナル駅で改札を出た。このまま帰りたくなかったし、この駅で降りるのは俺の日課だ。
俺は毎日退社後、ターミナル駅から五分ほど歩いた書店に向かう。
本を読んでいる時だけが、イラつきを抑えられる。大学時代にそのことに気づき、趣味が読書となった。
社会人になってからは読書量が増え、特に今年になってからは、ほぼ一日に一冊読んでいる。毎日イライラする。物語の中に自分を沈めないと頭がおかしくなりそうだった。


書店までの道のりは繁華街にあたる。
梅雨明け宣言が一週間前に出た。本格的な夏を前にして浮かれた奴らが、わらわらと我が物顔で歩いている。
若い奴らが多い。
そういえば今日から夏休みか。街が歩きにくくなる嫌な季節だ。学生どもの何も考えていない顔を見ると吐き気がしてくる。
俺がミサイルの発射装置を持っていたら、間違いなくここに落とす。ミサイルでこいつらも俺も一緒に消す。街は破壊され、何も残らない。そんな素敵な夢想をしながら、俺は書店まで歩く。すれ違うやつらも、俺のミサイルで死ぬことを考えるとイラつきがいくらか抑えられる。


書店に着くと、いつも通り二階の文庫本売り場に向かう。繁華街にある書店の割に、古めかしい品ぞろえが多く、俺としてはありがたい。特にこの文庫本売り場は人が少なく、最高だ。


いつものように人がいないことを期待すると先客がいた。
長い髪。すらりと伸びた手足。人形のように整った顔立ち。
これだけの言葉を並べるととんでもない美人がいるように思わせてしまうかもしれないが、問題は背が小さく、どう考えてもランドセルが似合うような年齢に見えることだった。
ガキだ。
っち。夏休みでブラブラと出てきたのだろう。どうせここにある本なんて読めもしないくせに。図書館で『エルマーの冒険』でも読んでろ。
早く帰ることを期待しながら俺は商品選定に没頭することにした。


俺は日本の古典小説が好きだ。大衆小説は糞だと思っている。安易なお涙ちょうだい。誰もが喜ぶ構成。堕落した奴らが読む、堕落した文字列を俺は読む気にはなれない。
今は明治の小説家、田山花袋を読み進めている。『蒲団』は読んだ。『妻』も読んだ。『時はすぎゆく』、これは読んでいない。手を出そうとしたとき、隣の棚から派手にものが落ちる音が聞こえた。
自然そちらに目をやると、さっきのガキが平積みの文庫本、数冊を派手に落としている。焦ったように文庫本を元に戻すガキ。俺には関係のないことだ。改めて本を手に取り、会計に向かおうとした時だった。


「あの……」
ガキに呼び止められた。
いつもなら無視して歩き去っていたはずだったが、まさか呼び止められるとは思わず、無意識に止まってしまった。
「この本なんですが、私の背では棚に戻すことが出来ないんです。申し訳ないのですが、戻して頂けますでしょうか?」
やけに馬鹿丁寧に喋るガキだ。
しかも、こいつが届かない棚にあるべきということは、こいつは棚から本を抜いていない。
どっかの誰かが棚から抜いて、平積みに置いたという話だ。何もこいつが戻す必要はない。さっきまでと同じように本を平積みの上に置いておけば、書店員が勝手に元に戻すだろう。


ただ、これを理由に申し出を断ることの方が面倒だ。
無言でガキから本を奪い取ると、菊池寛だった。「き」のインデックスを見つけると、文庫を入れ込む隙間がない。
なるほど、どっかの誰かはギチギチに詰まった棚に戻せず、あきらめて平積みの本の上に放置していったのだろう。
だが、それを説明することすらも面倒だった。
棚を良く見ると、一冊くらいなら無理やり詰め込めそうだ。
俺は文庫本を棚に押し込んだ。無理やり詰め込んでいるためか、表紙がよれる。本もゆがむ。
「あ、あの。本が傷みます。そこに入れ込むのは無理ではないでしょうか?」
ガキが言う。
「入れ込めないようでしたら、私が店員さんに言って整理したうえで戻してもらいます。本をください」
黙って本を渡すと、大事そうに抱える。
「ありがとうございました」
そう言うと、ガキは書店員を探し始めた。「やれやれ、変なことに巻き込まれたな」なんて思いながら、俺も会計に向かうおうとすると、ガキが急にこちらに振り向き、ニヤリと笑う。
「お兄さん、ずいぶん乱暴ですね。本好きとしてはいただけませんよ。あと無愛想ですね」
そう言い残すと、走って行ってしまった。


この時の俺の心情を察してほしい。
わざわざ、頼みごとを聞いてやって、その通りに行動してやったのに「無愛想」と言われる。しかもガキに。
上司のお小言も、同僚の視線も忘れた。
怒髪天を衝くというやつだ。しばらく怒りで動けなかったが、大人として一言言ってやらねばと後を追いかけることにした。
結果から言うと、ガキを見つけることは出来なかった。俺が追うことを予測したのだろう。素早く店員に本を渡し、店を出たようだ。
言い返せなかったためか、俺はこの日「無愛想」という言葉を何度も思い返すことになった。とにかく腹の立つ日だった。

 

 

眠りの効能は専門家がわざわざ発表しなくても、誰もが知っていると思う。
一晩経つと怒りは治まっていた。ただ「無愛想」という言葉がガキの声でリピートされているだけだった。


俺はいつも通り、就業ギリギリに間に合う時間に起きて、何度も着ることで袖が擦り切れたシャツを羽織り、踵がすり減った革靴を履いて、外に出た。
靴下に穴が開いていたが、誰も俺のことなんて見ていないだろう。
家から駅に向かう間、電車を待つ間、電車に乗っている間、駅から会社に向かう間、「無愛想」「無愛想」「無愛想」となんとなく言葉を頭の中で転がしていた。


出社すると俺以外の全員がすでに席に着き、パソコンを触ったり、談笑したり、コーヒーを飲んだりしていた。
頭の中に「無愛想」という単語が残っていたせいだろう。俺は入社後初めてのことをした。
「……はよーございます」


まったくする気はなかった。これまで一回もしたことがなかった。
隣の席に座る奴は佐々木という女で、就業中もペチャクチャと他の同僚と喋り五月蠅いことこの上ない、一個下の後輩だ。周りからチヤホヤされ可愛がられているようだ。
しかも俺が一回も通せていない企画を、こいつは後輩のくせに何度も通している。とにかくいけ好かない奴だった。
いつも佐々木から挨拶されるが、俺は返したことがない。
それなのに、今日は俺から挨拶をしてしまった。
佐々木は目を見開き、ぐるっと体をこちらに向ける。


「瀬戸先輩、どうしたんですか?挨拶するなんて?」
本気で驚いているようだ。
「いつもは私から、儀礼的に挨拶をしても何も返さないくせに」
儀礼的だったのか。まぁ別に返さないから、どちらでも良いけど。
「機嫌が良いんですか?あ!ははーん。昨日、早く帰りましたよね。彼女とデートだったんでしょう?」
彼女。確かに女ではあったが、ガキだ。
「五月蠅い。そろそろ始業時間だ。仕事しろ」
と、普段は俺の方が仕事をしていないのに、先輩の特権として佐々木を黙らせる。


今日は特に何も起きない日だった。上司に叱られることも無く、静かな一日。
俺はこういう一日を愛している。
朝の件から、佐々木が何か聞きたそうな目でこちらをチラチラ見ていたが、鬱陶しいので無視してやった。


軽く残業をすませると俺は上がることにした。
時間があるときに企画書を作るようにと上司からは言われていたが、業務多忙だ。何よりやる気がしない。とりあえず書店に寄って、飯を食って、帰ろう。


俺はいつもの通り、会社を出て電車に乗り、いつもの書店に向かった。
あのガキがいたら、どうしてくれようと思っていたが、やはりいなかった。
書店に毎日行く奴はいないだろうし、ガキにはここに置いてある書籍は難しすぎる。
夏休みの冒険心で、この店に来たに過ぎないのだろう。そして飽きた、と。


昨日購入した『時は過ぎゆく』はすでに読み終えていた。今日の分の文庫を購入し、店を出る。
そのまま隣のマクドナルドに入る。
ダブルチーズバーガー、ポテトのエス、アイスコーヒー」
既に言い馴れた注文を店員に告げる。メニューの内容は、冬になればホットコーヒーに変わるくらいだ。
二十歳を過ぎてから、何を食っても旨いと感じることはなくなった。腹が膨れれば何でも良い。しかも毎日、本を購入しているせいで金欠が続いている。食費を削るのが妥当だった。


俺はいつもの席に座り、さっそくさっき買った本を袋から取り出し、読み始める。
この店は繁華街にあるせいか、人がひっきりなしに出入りするが、俺は本を読み始めたら集中するので、気にならない。書店の隣にあるということが、楽に行けるという点において重要だった。


「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」が店内で流れるジャズ調のBGMに合わせ繰り返される。その「いらっしゃいませー」の後に続く無数の足音。
逆側の席に向かう足音、俺の前を通り過ぎる足音、こちらに向かいながら途中で席に着く足音。
俺は本を読みながら、この足音を何とはなしに聞くのが好きだった。


その足音の一つが近づいてくる。
そして、俺の席の前で足音が止まる。
動く気配がない。何だ?と顔を上げると、


「やっぱり。お兄さんでしたね」
ガキだった。

 

続く

ガキと俺② - こんにゃくライトセイバー

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と、ここまで。
僕が何となく考えている構成だと、全然まだまだ。
でも、最初と最後しか考えてなくて、半ばが思いついてないから止まるかも。
もしお暇でしたら。