こんにゃくライトセイバー

あさおきて ひるねして よるねた

ガキと俺②

あぁ!恥ずかしいよ!でも、載せてしまうのは何なんでしょうね。
二話目も書いちゃった。
一話目は以下。これの需要は無いと思いますが、整理のため……

ガキと俺① - こんにゃくライトセイバー

 

あ、でも今日褒められてちょっと嬉しかったです。とてつもなく恥ずかしかったのですが……。

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「やっぱりお兄さんでしたね。人違いだったらどうしようかと思いましたよ」
昨日のガキがトレイにハンバーガーと飲み物を載せて立っていた。
俺は「無愛想」の件について何か言ってやろうかとも思ったが蒸し返しても大人げない。無視するのが妥当だ。俺は読みかけていた本に視線を戻す。
「今日もだんまりですか?やっぱり無愛想ですね」
っち。
「大人を舐めるな。消えろ」
俺は目に力を込めて睨み付ける。
「ようやく口を開いたと思ったら、それですか?」
いかにも呆れたといった体でガキが切り返す。


「まぁいいや。失礼しますね」
ガキがトレイをテーブルの上に置き、俺の席の前の椅子を引く。あろうことかそこに座る。
「おい」
「はい?」
「何をしている?」
「何って、マックでハンバーガーを買って食べようとしてるんですよ?見てわかりませんか?大丈夫ですか?」
喋り方がいちいち腹立たしい。
「なぜ、俺の前に座る」
「他に席が空いてないんです。私だって無愛想な人の前に座るのは嫌ですよ」
ガキはすでにハンバーガーの包みを開けている。
「知るか。外で食え」
「あんまりつべこべ言うと、店員さんを呼びますよ」
頭が沸騰しそうだ。イライラする。俺はシャツの胸ポケットから煙草を取り出すと火をつけた。こいつの相手をしていると精神衛生上悪い。無視することに決め、閉じた本を開く。


「へー山田花袋とか読むんですね。読んでるのは……『東京震災記』ですか。私も昔、読みました。ルポなのに情緒的な文章ですよね」
気がつけば、ガキが俺の手元の本を覗き込んでいる。しかもなんだ?「昔」だと?飄々と嘘をつきやがる。
「嘘をつくな。お前みたいなガキが読んでいるわけないだろ」
「なんで私が嘘をつくんですか?父が文学好きで家にあるんですよ。『蒲団』も良いですよね。ラストで主人公が女弟子の服の匂いを嗅ぐシーンは変態チックなのに、悲しいですよね」
読んでやがる。
「明治時代の文学作品は良いですよね。特に恋愛小説は登場人物の心情が生々しく背徳的で、読んでいてドキドキします。私なら……『或る少女の死まで』『痴人の愛』『不如帰』なんかが好きです」
えらく渋い、というより小学生が読むにはどれも刺激的な内容だ。そんな本を読ませている、こいつの親はまともか?そもそも、いま二十時だぞ。こんな時間に繁華街のマックで一人で飯を食わせるのは異常じゃないのか。


ペラペラと文学について喋り続けるガキを改めて見てみる。
顔立ちは整い大人びた印象を与える。隣の席に座る気持ち悪いデブがガキをチラチラと見ていることから、人目を引くタイプなのだろう。
しかし、全体で見ると体が小さくまだ子供だとわかる。おそらく十歳から十一歳といったところか。デブ野郎が見ているのは、もしかしたらこいつの年齢もあるのかもしれない。っち。ロリコンか。
「おい」
俺はガキの話を遮ってみる。
「お前、何年生だ?」
「私ですか?二年生ですよ」
二年生!七歳!七歳で花袋を読むか?
「あ、もしかして私のこと小学生だと思ってませんか?しっつれいですねぇ。中学生ですよ。中二」
「中二!?最近は中学校でも飛び級で入れるのか?」
「どこまでも失礼ですね。十五ですよ、私」
「……お前、背の順で並ぶと一番前だろ?」
「無愛想な上にデリカシーもないって、お兄さん相当モテないですね」
こいつは話のけつに皮肉をつけないと喋れないのか?昨日の丁寧な言葉遣いがすでに懐かしい。


「十五歳がうろちょろするには、この辺りは危ない。それ食ったらとっとと帰れ。それで二度と来るな」
俺は珍しく相手のことを気遣う優しい言葉をかけてやる。
「言葉の使い方が下手ですね」と前置きした上で、ガキが話す。
「仕方ないじゃないですか。この近くに塾があるんだから。うちはお兄さんが出た三流学校と違って進学校だし、毎日塾に通わないとついていけないんですよ」
俺の出身校が勝手に三流校にされた。先ほどの優しい台詞は撤回する。痴漢にでもあってしまえ。心に傷がついてしまえ。


「ここのマックは穴場で塾の子たちも来ないし……」
ガキは少し顔を伏せ、ハンバーガーに少しだけ口をつける。
ほぅ。
「なるほどな。お前、友達がいないんだろ?」
バッと顔をあげるガキ。
「い、いますよ!それはもう!たくさん!富士山の上で百人とおにぎり食べられますよ!……ただ、いまはちょっと」
「ハブられてる、と」
間髪入れずに言葉の終わりを継ぎ足してやると、ガキの大きな目にみるみる涙が溜まる。隣のデブ野郎が俺に敵意の眼差しを送ってくる。こんなことで店員を呼ばれたら堪らない。勘弁してくれ。
「中坊のイジメなんて突発的なものだろう。どうせすぐに沈静化する」
俺はため息をつきながらフォローをいれてやる。
「なにも知らないくせに。適当に慰めないで下さい」
涙目のくせに憎たらしいことを言う。俺の精一杯のフォローを返せ。


俺はもう一本煙草を取り出し、火をつける。ジッと紙巻き煙草の焦げる音が耳に心地いい。
「何があった?」
「はい?」
「何がきっかけでハブられた?」
これほど嫌々な質問はここ最近、仕事でもしていない。少しだけ流れ出た涙を拭ってガキが答える。
「お兄さんじゃどうにも出来ないです」
面倒くせぇ。
「話すことで、楽になれることもあるだろう」
そう言ってやると、ガキは渋々と口を開いた。
「……最近ですね、何となく気分が晴れない日があったんです。勉強も学校も。……友達も」
「まぁ誰だってそういうことはあるだろう」
「でも私、本当にどうでも良くなってしまって、友達が喋りかけてきた時無視してしまったんです。邪険にしてしまいました。……今のお兄さんみたいな感じですね」
あぁ、それは嫌われるだろうな。経験上知っている。恐らく誰でもそんなことをしたくなる日はあると思う。ただ、実際にやったことがある奴が俺以外にもいるとは思わなかった。


「その日だけ。しかも昼休みの一時間だけ無視で、誰も私のことを相手にしてくれなくなりました」
無視は相手の全否定だ。否定された相手は、よっぽどのことがなければ否定し返す。人を拒否するということはそういうことだ。
「学校生活は孤独になると辛いですね。ペアで行動させられることが多いんですよ、学校って。誰も私とペアにならないんです。私のせいなんですけど、ちょっときついですね」
ガキが下を向きながらポツポツと話す。
「私が通う塾、学校の友達と入会したから、学校の子たちとしゃべれなくなると、自動的に塾でも孤独になるんですよ。だから、一人になれるお店を探してここに着いたんです」


ふむ。
「お前、好きな奴はいるのか?」
「は?きゅ、急になんですか?」
一気にガキの顔が赤くなる。バレバレだ。
「クラスにいるのか?」
「……中学生の恋愛事情を聞いてどうするんですか?変態ですか?」
ガキが怪訝な目で俺のことを見る。何で俺はこんなことをしてるんだろうな。
「良いから答えろ。クラスにいるのか?いないのか?」
「……いますよ」
「それなら、おまじないをしていたって言え」
「え?」
ガキが目を丸くする。
「お前はある日、古書ばかりを扱う本屋でまじないの本を見つけた。その本には好きな奴とくっつくためには、そいつと同じ部屋にいる間、一時間誰とも話してはいけないって書いてあったと言えば良い」
「……」
「そういえば授業があるな。……『自由に誰でも話せる条件下で、これをやらないと効力は発揮されない』って書いてあったって付け加えておけ」
ガキはキョトンとしていたが、何かを我慢するように小刻みに震えたかと思うと、頬を膨らませ、そして噴出した。
「っぷ!おまじないって!アハハ!いつの時代の話ですか?アハハ!バカみたい!」
人がせっかく考えてやったのに、腹を抱えて笑われた。イライラしながら煙草を咥えなおす。
「アハハ!」
笑いが止まらない。
「お前、ぶち殺すぞ」
睨みつけながら言ってやる。だが、ガキはまったく意に反さない。
「はぁ、面白かった。何か笑ったらスッキリしました」
こいつのストレス解消のために、俺のプライドが損失されたことについてはどうしてくれよう。


「よし!笑ったことだし、私は帰りますね」
いつの間にかガキはハンバーガーを食い終わっていた。
「笑わせてもらったお礼に一つ。お兄さん、煙草吸いすぎですね。今どきモテませんよ?」
やっぱりガキだな。色恋のことばっかり考えてやがる。
「大人は色々あるんだよ」
とだけ答えてやる。サービスだ。
「はいはい。じゃあ帰りますね。あ!そういえばお兄さん、名前は何って言うんですか?」
「何でお前に名前を言わなきゃならない?」
「名前くらい良いじゃないですか?言わなきゃ、私、ずっとここにいますよ」
これ以上ない拷問だ。


「……瀬戸。瀬戸祐司」
「ふーん。普通ですね」
どこまでも腹が立つ。成り行きで聞いてやる。
「お前は?」
「はい?」
「お前の名前は?」
そう聞くと、ガキは少しだけ考え、
「中学生の名前を知りたがるなんて、やっぱり変態ですね。おぉ怖い」
と、わざとらしく凍える仕草をしやがる。
「それじゃあ、このお店は危険なんで帰ります。さようならぁ」
ガキが手を振って帰っていく。
っち。むかついた俺は煙草を取り出そうとすると空だった。何ていう日だ。


ガキが帰ったら隣のデブもすぐに帰った。やっぱりロリコン野郎だった。
俺はデブの後姿を眺めながら、すっかり冷めたハンバーガーを腹の中に収める。……不味い。

 

 

しかし、俺はマクドナルドで煙草を吸ってから、今、つまりは翌日の朝まで煙草を吸っていない。断じてガキの捨て台詞を真に受けたわけではない。絶対にそんなことは無いと言い切れるし、もしそうだとしたら七転八倒ものに腹立たしい。だが、何となく今日は朝から体が楽だった。いつもより少しだけ早く目覚めることが出来た。


そのまま出社すると、やはり俺以外の全員が出社している。昨日挨拶して、今日挨拶しないのも、下手な勘繰りを入れられそうだったので、後輩の佐々木に挨拶してやる。
「……はよーございます」
「あ、先輩!おはようございます!」
朝から声がデカい。
「あれ?ん?」
佐々木が鼻をひくひくさせながら、近づいてくる。何なんだ。
「先輩、今日は煙草臭くないですね。いつも朝は閉口するくらい臭くって、吐きそうになるくらい嫌だったのに」
ガキといい、佐々木といい、年下の女は礼儀がなっていない。イラついた俺に構わず、佐々木が続ける。
「もしかして禁煙したんですか?あ!彼女に言われたんだ!臭かったですもんねぇ。アハハ」
無邪気に笑う。こいつはどうしても俺に彼女を作らせたいらしい。


「朝の挨拶もするようになった。禁煙も始めた。良い彼女さんですね」
「だから、違うと昨日何度も言っただろう」
俺はうんざりしながら答える。
だが佐々木は
「もぅ先輩!その歳で照れ隠しされてなくても」
と、聞く耳を持たない。もはや面倒なので、あれこれと話しかけてくる佐々木は無視して俺はデスクのパソコンに向かい、メールチェックを始めた。何で出社途中の道すがら俺は煙草を買わなかったのかな、とぼんやりと考えながら。

 

続く

ガキと俺③ - こんにゃくライトセイバー

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ちなみに文量は昨日と同じくらい。このくらいで集中力が切れるみたい。

求められていないと思いますが、続きは来週末かなぁ。