こんにゃくライトセイバー

あさおきて ひるねして よるねた

ガキと俺③

申し訳ないとしか言いようがありません。
僕がこの記事をシェアするたびに、TwitterFacebookに「のひ太の日記が上がったよ」って出てくるわけです。
で、「何かしら?」と見てみると気持ち悪い小説もどき。
申し訳ないなと思っています。
これを書ききったら、こういう気持ち悪いことをする用のブログを作ってアカウントを変えようと思っています。
なので、これが終わるまで、終わるまではお目汚しをお許し下さい。


……でもね、楽しくなってきちゃったんです。僕は変態だったみたいです。

ガキと俺① - こんにゃくライトセイバー

ガキと俺② - こんにゃくライトセイバー

 

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「こんばんわ。瀬戸さん」
「お前、普通に俺の前に座るな……」
無駄に笑顔を振り撒いて、俺の前にガキが座る。
この危険性を考えないわけではなかったが、俺は結局いつもの本屋に行き、いつものマクドナルドの、昨日と同じ席に座っていた。


ガキは俺の話を無視して喋り出す。
「まぁまぁ。瀬戸さんも今日は席が空いてるのに、昨日と同じところに座っちゃって。待ってましたよね?私のこと」
「俺はいつも、この席に座ってる」
「ふーん。そういうことにしておいてあげます」
偉そうにしゃべりやがる。早く、帰らないかなぁこいつ。


「昨日、瀬戸さんから古くさいアドバイスをもらったじゃないですか。あの……おまじないが、っぷ、どうとかの。あははは」
喋りながら、思い出し笑いしてやがる。
「早く、帰らないかなぁこいつ」
「心の声が漏れてますよ。でもですね、帰りながら考えてみたんですよ。これだけ荒唐無稽な話だと、逆にみんなが信じるかなって。それで、瀬戸さんに言われた通り、友達に『ごめん、あれはおまじないだったんだ。彼とどうしても上手くいきたくて』ってダメもとで言ってみたんです」
こいつ、あんだけ笑いながら実践しやがった。
「言ってる最中、吹き出しそうになったのを堪えきれた私は女優の才能がありますね。でも、『じゃあ私が誰が好きなのか?』って話に変わって、無視が終わったんですよ」
一応、俺のアドバイスは上手くいき、学生生活は改善されたらしい。こいつなりに礼に来たというわけか。


「それなら、もう塾でも一人じゃないな。ここに来て一人で飯を食う必要もない。ありがとう、君との時間は楽しかった。でも、もう二度と会うことはないだろう。さようなら」
すがすがしい。
「でも、同年代の子たちが退屈なのは変わらないんですよ」
嫌な予感がする。
「昨日から夏期講習が始まってるんですけど、かなりハードなんですよね。朝から晩まで同じ子達と勉強、勉強、勉強。帰る前に少し刺激がほしくなる。そんなときに口が悪いけど、お人好しそうな大人がいる場所がある。なんて好都合!」
「俺はガキとじゃれあうつもりは無い。俺の側によるな」
机を拳で叩いてやる。ガンッと音が鳴り、隣のやつがビクッと体を震わせる。
しかし、ガキは意に返さず、
「瀬戸祐司さん」
何故か俺のフルネームを呼ぶ。
「私が今、席を立ち、走りながら交番に行ったとします。そこで『せ、瀬戸という男に悪戯されかけた』と言えば、どうなると思いますか?私、見てくれには自信があるんですよ。可憐な女子が言うことと、冴えない男の言う言葉。どちらが信じられるでしょうか?」
こいつ、大人を脅してきやがる。
「死ね」
「大人が子供に使う言葉ではないですよ。まぁ私も別に瀬戸さんの静かな食事を邪魔したいわけではないんです」
今までからかうような面をしていたガキが急に真面目くさった顔になる。背筋を正し、うやうやしく頭を下げる。
「お願いします。またここに来させて下さい」
これまでと違って、切羽詰まった声色だ。急に何だ?こいつは?
二秒、三秒、四秒……。ガキは頭を上げない。肩が震えている。俺の回答を待っているのだろう。
「……勝手にしろ」
俺は自分の意思とは真逆のことを口にしてしまった。
「……本当?本当にまた来て良いの?」
大人っぽい顔をした奴だが、今は年齢にみあった幼い顔になっている。
俺はガキの問いには答えず、読みかけの文庫本に視線を落とした。何で俺はあんなことと言っちまったんだ?と自問しながら。
「……大丈夫ですよ。そんなに長くは邪魔しないですよ」
本を読み始めた俺にガキが言った。反射的に顔をあげるとガキは既に席を立ち、出口に向かうべく、俺に後ろ姿を見せていた。
今日は早く帰るってことか?分からん。


こうして、俺は何故かガキのおもりをすることになった。
俺は元来、人と絡むことを好まない。常に一人でいたいと思っている。
親には数年連絡を取っていない。学生時代には友人は作らず、恋人も特にほしいとは思っていない。性欲の処理は適当にネットで女を見つけ、抱いてから捨てている。しかし、女は基本的にウザく、誰もが関係を持ってから連絡を取り続けたがるので、その度に携帯のアドレスを変えている。何度変えたかは覚えていない。友人もいないので特に困ることはない。
そんな俺がガキのおもり。笑えない冗談だ。
しかし、俺はマクドナルドに律儀に通っている。
嫌ならあのマクドナルドに行かなければ良い。そうすればガキと縁を切れる。論理的帰結だ。
だが、そう思う度にあのガキの頭を下げながら肩を震わせた姿を思い出し「今日だけは行ってやるか」と思ってしまう。
自分でも意外に思うが、俺は甘い性格のなのかもしれない。


唯一俺にとって、幸運だったのはガキがそれほどお喋りではなかったことだ。
俺が本を読んでいるときは、黙って飯を食い、一言二言憎まれ口を聞いて帰っていく。
俺としては無視をしていれば良いから、その点は楽だった。
しかし、ガキは一度話を始めると止まらず、例の皮肉を効かせた会話をしてくる。
その度に「あぁウザいなぁ」と思うが、我慢をしてやる。俺は大人なのだ。
ちなみにガキは自分の名前を頑なに教えない。「私の名前を知ってどうするんですか?おまじないですか?」と言ってくるのでムカついて二度と聞いていない。


そんなことをしているうちに、カレンダーが一枚破られ、八月に入っていた。
今年は猛暑らしい。夜になっても熱が引かない。
特に俺が帰宅途中に下車する町は、ごみごみとした都会でアスファルトやビルのコンクリートは日中の熱を離さず、人工的な暑さを作り出している。
夏が深まる度に町に人が溢れかえり、道の障害物となっている。だからこの季節は嫌いだ。邪魔くさい。田舎者は田舎にいてほしい。都会に出てくるな。


そうやってイライラしていると、ガキはいつも通りマクドナルドのいつもの席に座ってきた。
「うわぁ瀬戸さん、今日は一段と人相が悪いですね」
いきなり憎まれ口をたたいてくる。
「放っておけ」
「瀬戸さん、見た目として元はそんなに悪くないんですけどね。人相が悪るさと、あと服が酷いですよね」
俺の着ているものは「酷い」らしい。
「別に着れれば何でも良い」
「でも、そのヨレヨレのシャツ、アイロンかけてないですよね?しかも、襟がボロボロになってますよ。パンツも裾が擦り切れてるし。何で私、こんな男とマックでご飯食べてるんだろう」
「もう帰れ」
「そんなわけで、買い物に行こうと思います」
また俺の声は届かない。
「は?」
「瀬戸さんの服を買いに行きましょう。もうこんなダサい人と一緒にいるの、耐えられないんです」
帰れ、じゃあ来るな、ちょうど良かった俺も一人になりたかったんだ、こいつを拒否する様々な言葉が思いついたが、おそらく無視されるので口には出さない。
ただ一言。
「面倒くさい」
とだけ言ってやった。


「そうですか……。残念です」
珍しく物わかりが良い。
「私はこの足で交番に行ってみますが、瀬戸さん、どうなるんでしょうね……。援助交際って懲役五年らしいですよ」
まただ。こいつは俺が拒否するだろう要求を通すとき、たいていこの脅しを使ってくる。そして、この脅しが俺にとって効果的なのが腹立だしい。
俺が黙っていると、行くことに承諾したと考えたのだろう。
「大丈夫ですよ。瀬戸さんの薄給でも無理のないお店を見つけておきました。シャツを五、六枚。パンツを三本も買えば十分かと思います。さぁ行きましょう!」と明るく言ってのける。
今からか!?
「思い立ったが吉日です」


そうして俺は何故かガキと服を買いに出ることになった。この町はとにかくデカく、夜が遅い。俺たちが夕飯を食ってからでも、まだ空いている服屋は多い。早く締めてくれていれば、こんな面倒なことにならなかったものを。
服屋に向かう道中、ガキはやけに俺の周りをウロチョロする。
マクドナルド以外でこいつと喋るのはあの本屋で会ったとき以来だが、何故かいつもよりはしゃいでいるようだった。何がそんなに楽しいんだ?
「私だって女の子ですよ。人のであっても買い物は楽しいです」
俺が心底面倒だと思うパターンだ。


そうして服屋についた俺は、ガキの着せ替え人形となり「あぁでもない。こうでもない」と命令されるがままに、シャツを着て脱ぎ、パンツを履いて脱いで、また何かしらを着た。
俺は服に対して全く興味がない。暑ければ脱ぎ、寒ければ厚着をするだけだ。
だからガキがシャツ一枚を選ぶのに、二十分も三十分もかける意味が分からない。
ガキが店内をウロウロしている間、ニヤニヤと店員の男が近寄ってくる。
「可愛いらしい妹さんですね。こんなに家族の服を熱心に探す子は今どき珍しいですよ」
周りから俺たちは兄妹に見えるらしい。
特に否定するのも面倒なので、「はぁ」とだけ返しておいた。
このガキと兄妹。疲れそうだ。
そうやってようやく服を買うと、入店してから二時間も経っていた。貴重な時間を無駄に過ごした。
「明日から着てくださいね」
ガキが言う。当たり前だ。「安い」と聞いていたが、俺のボーナスがほぼ吹っ飛んだ。まったく値札を見ずにレジに通したらとんでもない金額だったが、今さら引くことが出来ず全品購入する羽目になった。
これは厄日としか言いようがない。
こんだけのものはすぐに減価償却を始めないともったいない。さっそく明日から着ることになるだろう。


「さて、そろそろ帰ろうと思うんですが、私は西口なんですよ」
「そうか、俺は南口だ。ここでお別れだな。じゃあな」
南口に向かおうとする俺の進路に、ガキが体を入れ込んで止めてきた。
「この辺、治安が良くないらしいですよ」
「お前がノコノコ出てくるマック近くの方が、治安は良くないだろう」
「駅まで見送らないとか、男としてどうですか?」
ガキに男を説かれた。
「はぁ」
その上、ガキがため息をつく。


「実はですね。私、ストーカー被害にあっているみたいなんです」
「は?」


そこから、立て板に水のごとくガキが語りだす。
どうも二、三日前から人の視線を感じるようだ。始めは俺のことを疑っていたらしい。ガキがちょっかいを出しているうちに、俺が本気になってしまったのではないかと考えたそうだ。瀬戸を魅了する私の魅力こそが罪なのではないか?そんなことをこの三日間考え続けたらしい。アホか。
「つまり、俺を外に連れ出して、それでも視線を感じるようなら俺は白だ、ということか?」
「さすが瀬戸さん。ご明察」
「お前の疑念を晴らすために、俺はボーナスを全額使ったのか……」
「まぁ瀬戸さんのダサい恰好を何とかしたかったのは本心です。私が恥ずかしい思いをするので」
このまま、こいつを放って帰ることもできたが、肝心のことを聞いていない。


「で?視線は感じたのか?」
「はい。残念ながら瀬戸さんじゃなかったみたいですね」
「今も感じるのか?」
「そうですね。だから、私が使う改札の場所を教えたんじゃないですか。察しは悪いですね」
「改札まで送れと?」
「えぇ、怖いので。今日はボディガードをさせてあげます」
「そんな面倒事に俺が進んで巻き込まれると思うか?」
一刻も早く帰りたい。
「私、最近日記をつけ始めたんです」
また話を唐突に変えてくる。
「今日あったことを書くんです。だから瀬戸さんもちょくちょく出てきますよ。しかもさっきまで瀬戸さんがストーカー犯だと思っていたので、その視点で書いています」
「おいっ」
「もし私に何かあれば、その日記が鑑識に回されることでしょうね。そこに出てくる『瀬戸』の名前。あぁ!何てこと!瀬戸さんは無実なのに、疑われてしまうんですね!こうやって冤罪が生まれる……。悲しいことです」
「……お前、狙ってるだろう」


そうやって俺はまた脅される形で、ガキを送ることになった。
しかし、だ。
こいつをわざわざストーキングする奴がいるのか?学校関係者か?塾関連のやつか?大人か?子供か?
確かにガキが危機的な状況にいるということは理解した。そして、俺がその面倒に巻き込まれつつあるということも。

 

つづく

ガキと俺④ - こんにゃくライトセイバー

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