こんにゃくライトセイバー

あさおきて ひるねして よるねた

別れ際

もう桜も散っちゃいましたね。
今年も、憧れの女の子が僕の肩についた桜の花びらを「あ、のひ太。肩に花がついてるよ」って取ってくれることはありませんでした。
彼女を意識するあまり、ビクッとその手を避けてしまうことはありませんでした。
それを悲しそうに「ご、ごめん。余計なことしたかな……?」ってショックそうな顔をされることはありませんでした。
何も言えずモゴモゴしてると、友達に呼ばれた彼女が行っちゃって、謝ることすら出来なかった、なんてことはありませんでした。
うちに帰ってベッドで「うぉぉぉ!あの時の俺!バカ!!」って、ゴロゴロのたうち回ることはありませんでした。


そんなことを考えながらの大戸屋 at 22時半。
となりには若いカップルが。
距離が近いからどうしても二人の会話が聞こえちゃう。
べ、べ、べ、別に聞き耳を立ててるわけじゃないですからね!


女の子「もぅ今日疲れたなぁ。帰るのダルいしぃ。マジで。うふふふふ。○○の家泊まっていい?」
男の子「あー良いよ(冷静)」
良くないことだとは分かってるんですが、こんな会話されたら気になる!
そっと横目で二人を見てみます。


女の子「ねーにらめっこしよう」
男の子「いいよ」
女の子「はじめ。うふふふふ」
男の子「もう笑ってんじゃん」
女の子「なんか楽しくてぇ。こんな感じ初めてかも」
男の子「どんな感じなの?」
女の子「なんか友達といるみたい。……あ!いい意味でだからね。いい意味」
男の子「良い意味かぁ」


この僕の目の前にある『鶏の黒酢あん定食』の唐揚げを隣に投げつけてやりたい……!
ねぇ?神様!疲れて仕事終わってこの仕打ち?
彼女、疲れたを理由に家に帰るのダルいって言ってるけど、絶対、彼氏んちで寝ないもん!
正直に言いましょう。
羨ましすぎて鼻血が出そうです。


が、ちょっと冷静になってみましょう。
僕が男の子の立場だったらどうか?

女の子「もぅ今日疲れたなぁ。帰るのダルいしぃ。マジで。うふふふふ。のひ太の家泊まっていい?」
僕「え、あっと、え、その……。きょ、今日はウチがこれでもかってほど汚くて、○○ちゃんに来てもらうのは恥ずかしいから、こ、今度ね」
こ、断っちょる!!
この意気地なし!!


やーでもどうせなら、お泊りになるならこんな感じがいいと思うのです。

デートの別れ際。改札前で。
僕「今日は楽しかったよ。またね」
彼女「うん、またね」
ここは彼女の地元。
怖い親を持つ彼女の家に泊まるなんてもってのほか。僕は電車で帰ります。


改札で振り向くと彼女がまだ手を振ってくれてる。
見えなくなるまで手を振り返す僕。
電車を待つ間、カメラ嫌いの彼女が「仕方ないなぁ」って1枚だけ撮らせてくれた写メを見る。
怒ったように不器用に笑う彼女。
ちょっと迷ってから待ち受けに設定する。


電車が到着する。
「あー良い日だったな」と思いながら電車に乗り込むと、ふっと見知った影も乗り込んでくる。
「え?な、なんで?」
「な、なんでだろう?」自分の行動に、自分でも戸惑う彼女。
「この電車、下りの最終だよね。あ、あはは。乗っちゃった。どうしよう」慌てる彼女。
「ど、どうだろう?調べてみる」と携帯を出す僕。
「うん、ごめん。お願いって、あ!」僕の携帯を見て声を上げる彼女。
なに?って自分の携帯を見ると、さっき待受に設定した彼女の写真。
「ちょ、待受はやめてよー」
「や、これはたまたま!」
「たまたまで、設定はされないでしょ。あ、一駅過ぎちゃった。てか、終電の検索!」ドタバタ慌てる僕ら。
「ふー」突然大きく息を吐く彼女。
「よし!もういいか!決めた!のひ太んち泊まるわ。今日、のひ太とデートって言っちゃったから、明日お父さんに一緒に謝って」
「え?ええー!」

みたいなドタバタお泊りになるっていうのが、良いかと。
難しいでしょうか?